一途な想いは正義か悪か。

【ストーリー】
天才的なドライビングテクニックを持つ寡黙な「ドライバー」は車の修理工として働いていた。本業とは別に昼は映画のカースタントマン、夜は強盗の逃走を請け負う運転手という一面を持つ。孤独なドライバーは、ある晩に同じアパートに暮らすアイリーンと偶然エレベーターで乗り合わせ、て一目で恋に落ちる。不器用ながらも次第に距離を縮めていくふたりだった。だが、ある日アイリーンの夫スタンダードが服役を終え戻ってくる。その後、本心から更生を誓う夫を見たアイリーンは、ドライバーに心を残しながらも家族を守る選択をするのだった。しかし、服役中の用心棒代として多額の借金を負ったスタンダードは、妻子の命を盾に強盗を強要されていた。そんな中、絶体絶命のスタンダードに助けを求められたドライバーは、無償で彼のアシストを引き受けるのだが。


あなたはどんな映画だと想像しますか?天才的なドライビングテクニック、車、カースタント、この映画に出てくる要素を聞くと派手なアクション映画を想像する人もいるだろう。だが、この映画はハリウッドの派手は映画とは一線を画している。

実に静かな映画だ。冒頭のカーアクションシーンでもほとんど音楽は使わずに生の音が生み出す臨場感を大切にしている。車が走るシーンでの車内の映像とエンジン音はきっと観客にリアルを突きつけるだろう。

この静かな印象をもった映画では俳優の演技が光っている。実にぎこちなく言葉数少ないドライバーとアイリーンの二人の空気はのんびりと穏やかだ。台詞が少ない分、言葉ではなく顔と姿で語る。実に大人の結びつきを想像させる。観る人を引き付ける演技とはこういうことを言うのかもしれないと思わせる演技は必見だろう。

静かな映画であっても実は映画の展開は激しい。そのためその展開が際立って目立つのだ。まさかという展開は観る人を魅了させるはずだ。静かな流れから激流に変わる。なんともエッジの効いたラストに向けた動きはこの映画を静かで淡々としたつまらない映画から脱却させている。

この映画はカンヌ国際映画祭で監督賞に輝いたサスペンス作品だ。劇中ではサスペンスだけあってかなり過激な描写がある。後半は血が血を洗う様相なのだ。こういった映画の好き嫌いはあるかもしれないが賞をとった作品だけあって実に面白い。賞の賛否両論はどんな賞でもあるが、この映画は賞を取るだけの力がある一本だ。